自分の名前を商標登録できるの?マツモトキヨシにおける事例

 

新しい商標

マツモトキヨシという音商標

最近、ドラッグストアチェーンを運営する株式会社マツモトキヨシホールディングスが出願している音商標(上記画像参照、商願2017-7811)についての拒絶審決に対する審決取消訴訟(知財高裁判決;令和2年行ケ第10126号)において、原告マツモトキヨシ側が勝訴しました。

判決の要旨は、『「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から、通常、容易に連想、想起するのは、ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」、企業名としての株式会社マツモトキヨシ、原告又は原告のグループ会社であって、「松本 清」、「松本 潔」、「松本清司」等の人の氏名を連想、想起するものと認められないから、当該音は一般人の氏名を指し示すものとして認識されるものとはいえない』、というものです。

この判決の拘束力により、「マツモトキヨシ」という音商標は再審査されて登録される運びとなりました。

〈氏名を含んだ商標とは〉
 商標法は、他人の氏名を含んだ商標については、その他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができない旨を定めています(商標法第4条第1項第8号)。

株式会社マツモトキヨシホールディングスの場合、その創業者が松本清氏であり、その本人の同意を得た形で権利化を行っています。

マツモトキヨシの各種商標

マツモトキヨシの各種商標

他人の氏名を含んだ商標には、氏名(苗字+名前)そのものからなる商標のほか、氏名以外の要素が含まれた商標も含みます。他人の氏名は、存命の人物に限られ、日本人・外国人の双方が含まれます。また、存命でない人物名は自由に使用できるのが原則です。

ただし、有名な歴史上の人物名については、公序良俗違反になるとして、商標法4条1項第7号により拒絶されます。詳しくはこちらの記事もご参照ください。(https://www.ipfrontier.co.jp/appeal-products-historical-figures/

なお、ありふれた名字については、商標法第3条第1項第4号により、登録することができませんが、一般的に使用される名前〈氏名の「名」のみ〉については、拒絶をするための特別な規定がないので、他の登録要件を満たせば商標登録が可能です。

〈同姓同名と商標登録との関係〉
ところで、同姓同名の他人がいる場合に、商標法第4条第1項第8号の規定はどのように適用されるのでしょうか。以前は、著名な人物の氏名については、著名人本人や著名人本人の同意を得た者が出願した場合には、同姓同名の他人がいる場合においても登録になっていました。

例えば、株式会社マツモトキヨシホールディングスは、「マツモトキヨシ」の文字商標を多数取得しており、最近のものでは、2013年に出願された商標が登録になっています(上記画像、左から順に商標登録第5614667~5614669号)。

しかしながら、近年では氏名を含んだ商標の審査判断が厳しくなってきており、同姓同名の他人が存在する場合には、その他人の同意を得なければ、著名人本人が出願した場合でも権利化できなくなっています。

今回の件でも、特許庁の審査・審判では当初、「まつもときよし」の同姓同名の他人が存在するとして、「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音商標の登録が拒絶されたのです。

これに対して、知財高裁の判決では、マツモトキヨシはドラッグストアとして著名であり、音商標の音を聞いた場合に、多くの人は「まつもときよし」という姓名の人物ではなくドラッグストアをイメージする、と認定し、マツモトキヨシの音商標は「他人の氏名」を含む商標に当たらないと判示したのです。

 

ええ~つ! マツモトキヨシは人名だよ。人名をお店の名前に使っているだけだよ、と思う方も多いと思います。

この判決は、人格的利益を害するおそれのある商標の登録を排除する商標法4条1項第8号の法趣旨と、現に氏名を付した商標が社会に存在し商標的機能を果たしているという実情と、をバランスさせるための大岡裁き的な判決だと思います。この判決は確定しているので、今後はこの判決に沿った審査運用がなされます。

ということで、他人の氏名を含んだ商標は、必ずしも登録されないというわけではなくなりました。しかし、登録のためのハードルはかなり高いと思われます。

次回は、氏名を含んだ商標出願を登録に導くための留意点について考えてみます。

商標意匠相談室