商品の品質、効能、用途などを表す商標は、商標登録されるでしょうか
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商標出願は簡単そうに見えるのですが、実は奥が深く、簡単にシロクロつけ難い場合があります。今回の話題は、かなり難易度の高いテーマですが、この話題で商標の奥深さを感じ取っていただければと思います。
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▼株式会社アシックスは、新鮮な空気を衣服内に送り込む小型のファンを搭載したスポーツウェア「AIR CONDITION WEAR」を、2020年7月3日に発売しました(上記画像参照)
「AIR CONDITION WEAR」は、ファン付きの衣服や座布団などを製造販売する株式会社セフト研究所と、株式会社空調服とが共同で開発した商品です。
このスポーツウェアは、汗の気化を促進するとともに、暖かく湿った空気を服の外に逃がすことにより、衣服内温度を約1.0から1.5度、湿度を約10%下げることが期待できるそうです。
この「AIR CONDITION WEAR」という名称の商標は、2020年7月21日現在、出願が確認されていませんが、仮にこのような商標を指定商品〔被服〕で出願した場合、登録されるでしょうか。
「AIR CONDITION WEAR」は、空気調節を意味する「AIR CONDITION」と、衣服を意味する「WEAR」が組み合わされた文字商標であり、「AIR CONDITION WEAR」という言葉からは、空調機能を備えた服という意味が思い浮かびます。
そうとすると、「AIR CONDITION WEAR」は、商品の品質を表示する標章ということになります。
▼ところで、上記の株式会社セフト研究所と株式会社空調服は共同で、2002年10月に①「空調」(商願2002-090001)、2016年3月に②「空調服」(商願2016-030424)、2018年3月に③「空調ズボン」(商願2018-038617)、2018年11月に④「空調つなぎ」(商願2018-140005)を、何れも標準文字商標出願しています。
それぞれの指定商品は、①「空調」;〔被服,ガーター,靴下止め・・・〕、②「空調服」;〔通気機能を備えた作業服・ワイシャツ・ブルゾン〕、③「空調ズボン」;〔通気機能を備えたズボン〕、④「空調つなぎ」;〔通気機能を備えた作業服,通気機能を備えたつなぎ〕です。
これらの商標登録出願のうち、②の「空調服」と④の「空調つなぎ」は、商標法第3条第1項第3号にいう“商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である”と認定され、拒絶理由通知が発せられています。
ただし、②の「空調服」については拒絶査定不服審判が請求され、更に知財高裁に審決取消訴訟が提起されています。また、④の「空調つなぎ」については、いまだ特許庁に継続中です。
よって両商標とも、最終決着していない状態にあります(2020年7月21日時点)。
これに対して、①の「空調」と③の「空調ズボン」は、拒絶理由が発せられることなく登録査定となっています。
▼拒絶された②の「空調服」、④の「空調つなぎ」と、登録になった①の「空調」、③の「空調ズボン」との違いはどこにあるのでしょうか。
“空調”なる用語は、室内、車内などの空間における空気を調節するなどの意味であり、この用語はエアーコンディショナーなどの空調機器に関する分野で使用されていますが、被服の業界で広く使用されている用語ではありません。
よって、指定商品〔被服,ガーター,靴下止め・・・〕に対して、「空調」という商標が登録されることに特段の違和感はありません。
これは、普通名称である「Apple」が電子計算機などの商標として登録されているのと同様な理屈だからですが、③の「空調ズボン」についても同様な理屈が成立するのでしょうか。
▼「空調服」の拒絶査定不服審判における審理内容や、「空調つなぎ」に対する拒絶理由を読むと、次のことがわかります。
「空調服」〔指定商品;作業服・ワイシャツ・ブルゾン〕や「空調つなぎ」〔指定商品;通気機能を備えた作業服,通気機能を備えたつなぎ〕については、審査及び審判審理の時点で、空気調節機能を備えた服や、空気調節機能を備えたつなぎが他者により実際に製造販売された実情が確認されており、この事実をも有力な根拠として、“空調”という言葉は、「空調服」や「空調つなぎ」という商品の品質を表していると認定されているようです。
そして「空調服」や「空調つなぎ」には、空調以外の識別性要素がふくまれていないので、これらの商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標となり、商標法第3条第1項第3号の規定に該当するとされたのでしょう。
▼③の「空調ズボン」についても、空気調節機能を備えたズボンという意味合いがあり、このことからすると“空調”は“ズボン”という商品の品質を表しているといえなくもありません。
しかし、「空調ズボン」については、拒絶理由が発せられることなく登録査定となっています。
このことを、上記「空調服」、「空調つなぎ」の例に照らして考えると、「空調ズボン」については、審査の時点で、空気調節機能を備えたズボンが、他者により製造販売等されている実情が確認されなかったのでしょう。
つまり、“空調”は、室内、車内などの空間における空気を調節するなどの意味であり、本来的には衣服の品質を表す用語ではないので、空調機能を備えたズボンが実際に存在していない場合には、“空調”はズボンの品質を表示する言葉として取り扱わない。
しかし、空調機能を備えた服が、実際に存在している場合には、“空調”は服という商品の品質を表示している言葉として捉えるのだろうと思われます。
▼ここで今一度、上記「AIR CONDITION WEAR」について考えると、AIR CONDITION WEARという言葉からは、“空調機能を備えた服”という意味合いが浮かび、この言葉には他に識別性ある要素が含まれていません。
よって、空調機能を有する服が実際に他者により製造販売されているという実情があるので、現時点では拒絶になると思われます。
しかしながら上記したとおり、②の「空調服」、④の「空調つなぎ」については、未だ登録可否が決着していません(2020.7.21現在)、
この決着の行方・判決の内容によっては、商標法第3条第1項第3号の解釈に影響を与える可能性があります。それゆえ、これらの決着の行方に注目したいと思います。
▼なお、「空調服」や「空調つなぎ」が当該商標出願人によって使用されて、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるようになった場合には、商標法第3条第2項の規定によって登録される可能性があります。
「AIR CONDITION WEAR」商標についても同様なことが言えます。しかしながら、商標法第3条第2項の規定の適用を受けての商標登録は簡単ではありません。
しかして、③の「空調ズボン」は、商標法第3条第2項の規定の適用を受けての登録ではないのです。
商品の機能や用途を表現した「空調ズボン」のような造語商標は、端的にその商品の機能・用途をアピールするので顧客訴求力があり、価値の高い商標となります。
それゆえ、商品の製造販売にかかわる多くの人が、そのような用語を用いた商標を使用したいと考えます。
しかし、品質、効能、用途等を表す用語は、何人も自由に使うべき用語であり、特定人に独占させるべきものではないので、商標法はこのような商標の登録を排除するように仕組まれています。
よって、本稿の事例に示すごとく、商品の品質、効能、用途を表す用語を用いた商標を登録に導くのは難しいのです。
▼ここで、本稿を最後まで読んでいただいた方へのマル秘アドバイスを記します。
商品の機能や用途を表す用語を用いた商標は登録されにくいのですが、出願時点においてその商品の品質と無縁と考えられている用語を先取りして出願すれば登録の可能性があります。
また、その商品と異なるジャンルから好きな用語を選び、このような用語を複数組み合わせた造語商標とすることにより、登録可能性を高めることができます。
このようにして作った造語商標のうち、自分が使いたい気に入った商標、顧客訴求力がありそうな商標は、すぐに商標登録出願してください。
他者が先に使用を始めたり、先に商標登録出願すると、折角のその商標が使用できなくなってしまう恐れがあるからです。