初めて海外進出する企業が知っておくべきこと/商標のいろは-1

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〈1〉商標とは

商標は需要者・消費者に自社の製品・商品・サービスであることを端的に認識してもらう旗印です。商品・サービスの同一性を示す旗印です。ブランド戦略の核となる最重要な要素です。

少し古い本ですが、商標に関する権威ある書である網野誠著「商標」(第4版62頁)に、「商標とは、商品取引社会において、何人かの業務との関係において個性化された商品の同一性を表示するために(自他商品を識別するために)商品に使用される文字、図形、記号等感覚的に把握し得る手段である」とする定義が記載されています。 この本における商標の定義(この本で定義される商標)を、「網野定義の商標」と称することとします。

商標に関し私たちを法律的に律しているのが日本国商標法です。その第2条1項には、「この法律で、商標とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩またはこれらの結合、音その他政令で定めるものであって、次に掲げるものをいう。」と定義しています。

上記「次に掲げるもの」とは、「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用するもの」(同1号)と、「業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用するもの」(同2号)です。

〈2〉登録主義と使用主義

上記網野定義の商標と違い、商標法第2条1項の商標定義(商標法第2条1項により定義される商標)には、自他商品の識別性が入っていませんが、この理由を知ると「商標」をより深く理解することができます。 商標法第2条1項の商標定義(商標法第2条1項により定義される商標)に自他商品の識別性が入っていないのは、自他商品の識別性が要らないということではなく、日本国商標法が登録主義を採用しているからです。

日本国商標法は、登録主義を採用しているからこそ、その商標を実際に使用していなくとも商標登録され、商標権が付与されますが、出願にかかる商標が実際に使用されたときに識別力を発揮し得る能力を持っていることや、公益等に反しないものであることが、出願段階で要求されています。

すなわち商標法3条で「商標の要件」、同4条で「商標登録を受けることができない商標」、同5条で「商標登録出願」、同8条で「先願主義」などを定め、これらの規定により、自他の商品・サービスを識別し得る商標、公益等に反しない商標を、最も早く出願した者に、商標権を付与するという登録制度を形作っています。

登録主義に対向するのは使用主義(ないし先使用主義)です。使用主義とは、最も早くその商標の使用を開始した者に商標権を付与するという主義です。 上記のごとく、日本国は最先の出願人に商標権を与えるという登録主義を採用していますが、使用主義を採用している国(例えば米国など)も存在します。(米国で商標登録を受ける場合には、米国での使用の事実、又は使用意図についての陳述書の提出が必要になります。)

よって、グローバルな商標戦略を考えるときは、進出先の国が登録主義国なのか、使用主義国なのかを知る必要があります。登録主義国なのか、使用主義国なのかの違いによって、商標保護の在り方や手続きの仕方が違ってくるからです。

上記網野定義の商標を読むことにより、商標概念が形成いただけたと思いますが、登録主義国、使用主義国のいずれであっても、一般的な意味における商標は、上記網野定義の商標です。 つまり、自他の商品・サービスを識別するものが商標であり、登録主義国、使用主義国のいずれの国においても識別機能を発揮しない商標は保護されませんが、登録主義国と使用主義国では、同一商標が競合した場合における取扱いが違います。

登録主義国では最先に出願し、登録された者が優先され、使用主義国では先に使用を開始した者が優先されます。 この違いは、商標戦略においては極めて重要です。日本国を含む登録主義国ではとにかく早く出願しておかねばならないのです。

なお、登録主義国における先願主義の法的意図は、出願を競わせることによって出願数を多くしようという意図ではありません。明確に先後を判断できる先願主義を採用することによって、無用な先後の争いを防止しようとしているのです。

〈3商標保護の対象が拡大

上記網野定義の商標は、従前の商標概念なので、サービスマークが明示的に記載されていません。しかし、日本国の商標法はたびたび改正されて、保護対象が拡大しています。 今やサービスマークのみならず、従前の商標イメージを超えた商標が保護対象となっています。

現行の商標法は、「立体商標」や、団体商標地域団体商標を保護しています。また、自他商品の識別標識という従前の商標概念から離れた新しい商標、すなわち音商標」、「動き商標」、「ホログラム商標」、「色彩のみからなる商標」、「位置商標を保護しています。

新しい商標については、まだまだ十分に知られていない状態にあります。是非にこの新しい商標を知っていただき、自社の業種・業態に合わせて、これらの商標を上手く使って頂きたいです。

これらの商標を上手く使うと、新しいビジネス展開が可能になるでしょう。 また、海外進出する際の武器になるでしょうから、参考に資するため、新しい商標の登録例を紹介しておきます。なお、未だこれらの商標を保護していない国も存在します。 よって、海外進出する際には、進出先の国がこれらの商標を保護しているのか否かを、事前に確認してください。

〈4立体商標・新しい商標の登録例

[4-1立体商標

菓子及びパン他/登録番号:第4157614号

ペコちゃん正面
ペコちゃん横

[4-2位置商標

履物及び運動用特殊靴/登録番号:第4574203

靴の位置商標

[4-3見る角度により表示される色彩が変わるポログラム商標

ギフトカードの発行他/登録番号:第5804315号

  • GIFT-CARD-1

[4-4見る角度により表示される内容が変わるホログラム商標

クレジットカード利用者に代わってする支払代金の清算他/登録番号:第5908595号

  • jcb1

[4-5色彩のみからなる商標

各種業務において行われる顧客に対する便益の提供/登録番号:第5933289号

セブンイレブンの色彩

[4-6動き商標

日本酒他/登録番号:第5804568号

  • 動き1

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〈5まとめ

世界の殆どの国は商標を保護していますが、使用主義国と登録主義国があります。使用主義国であるか、登録主義国であるかによって、若干保護の在り様が違います。海外進出する際は、この点に注意してください。

日本国を含む世界中の国々は、時代の進展に合わせ、商標保護の範囲を広げています。日本国は、2015年に「音商標」、「動き商標」、「ホログラム商標」、「色彩のみからなる商標」、「位置商標」を保護対象に加えています。これらの商標を上手く利用すると、新たなビジネス展開が可能になります。

商標は、ビジネス戦場に掲げる旗印です。新しいビジネスを始めようとするとき、新しい商品を考えたとき、海外進出を計画したとき、それらのビジネスを表象する名前、商品名、サービス名、店舗名を渾身の思いを込めて考えましょう。この商標を早めに商標登録して守り抜きましょう。

 

商標意匠相談室