商標の機能及び商標登録制度のいろはを知ってブランド戦略をマネジメント

海外に飛び出そう

海外に飛び出そう

忙しい企業経営者が最低限知っておくべき商標知識

本稿は、初めて海外進出する企業が知っておくべきこと/商標のいろは-2として、忙しい企業経営者が最低限知っておくべき商標知識について考えます。

1.商標戦略・ブランド戦略についてのリテラシー

1.1 ブランド戦略の第一歩は旗印である商標を定め、商標登録すること

日本企業が海外進出するときは、日本国において一定程度の事業基盤ができていることが前提となりますが、グローバルなブランド戦略を展開する場合も同様です。

ブランド戦略の第一歩はその旗印となる「商標」を定め、その商標を日本国特許庁に出願し登録してもらうことです。

自社や自社商品の旗印である商標が日本国で商標登録されていないと、他者にその商標をとられてしまう恐れがあります。

このような状態では、海外進出しても海外でのブランドつくり、信用づくりもうまくいかないでしょう。

それゆえ日本国で使用している自社商標の防備を固め、その上で海外展開する商品ブランドとしてこの日本国商標を使うのか、この日本国商標と親和性のある商標を新たに作るのかを決めます。

そして、海外進出する前にそのブランドにかかる商標を、日本国および海外進出予定国に商標登録手続きを済ませておくことが望まれます。

 1.2 「商標の機能」と「商標登録制度の役割」の概要を知る

初めて海外進出する場合は、不慣れなことが多く、かつやるべきことが多いです。よって商標にまで手が回らないというのが現実です。

また、発明とは違って、「商標」は任意に選ぶことができるものなので、後付けで手当てすれば何とかなると思っておられる企業経営者もおられます。

しかし、商標・ブランドはビジネスとの結びつきが極めて強いので、当初から安心してその商標を使用できる状態にしておく必要があります。

後付けで商標登録しようとしたが、すでに他社が商標登録済みであり、その商標の使用を諦めなければならなくなった、ということがしばしば起こります。

そして商標の取り扱い方や商標保護の条件は、国ごとで異なるので、後付け対応は、それだけ大変になります。

また商標に関する国際条約は沢山あるので、多忙な企業経営者が、進出先国の商標情報を把握し、グローバルな商標戦略・ブランド戦略を指揮することは大変です。

ということで、多忙な企業経営者が簡単に学べる商標戦略・ブランド戦略の第一歩をここで明かします。それは「商標の機能」と「商標登録制度の役割」を知ることです。

経営者が「商標の機能」と「商標登録制度の役割」を知ると、この知識と今までに培ってきた経営センスとで、自社のブランド戦略・商標戦略の方向性を頭の中に描くことができます。

自社のブランド戦略・商標戦略の方向性を頭の中に描くことができれば、専門的実務的な小難しいことは、商標担当者や外部の専門家に委ね、自らは企業の最高責任者として自社のブランド戦略・商標戦略の方向性を指揮、監督すればよいのです。

つまり、企業の最高責任者としての使命を果たすことができます。

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くつ

シューズショップ

2.[商標の機能]を知る

2.1 商標の本質的機能は自他商品・サービスの識別機能

靴ショップに行くと、沢山の靴が並んでいます。

靴を購入しようとする消費者は、自分のサイズや好みにあった靴を複数探しますが、その際、必ず靴に付された商標を見ます。

そして自分が知っているブランドの靴であると、他の靴よりも少々価格が高くとも、納得してそれを購入します。

靴の品質・性能は手に取った靴を見ただけではわからないので、安全のため、自分の頭の中に記憶されている良いイメージの靴(自分が知っている商標の付された靴)を選択するのです。

ことを更に説明します。商標は、自己の商品・サービスを他人の商品・サービスと区別するために自己の商品等に使用するものです。

すなわち、自他商品・サービスの識別機能が商標の本質的機能です。

自他商品等の識別機能を有する商標は、市場において出所表示機能、品質保証機能、広告宣伝機能の3つの機能を発揮します。

日本国も外国も、この3つの機能が市場で適正に発揮されるようにするために、商標を保護しています。

2.2 出所表示機能

①出所表示機能とは、同一の商標が使用されている商品・サービスは同一の出所にかかることを表示する機能です。

商標にこの機能があるからこそ、消費者・需要者は商標を見るだけで、同一の製造者や販売者にかかる商品等であることを知ることができます。

他方、製造者や販売者は、商標のこの機能を使って、顧客を囲い込むための企業努力を重ねます。

2.3 品質保証機能

②品質保証機能とは、同一の商標が使用された商品・サービスは質的に同一であることを示す機能です。

この機能は、消費者・取引者の利益を保護する機能であり、この機能は、製造者・販売者等(商標使用者)の企業努力により支えられています。

 2.4 広告宣伝機能

広告宣伝機能とは、商標が記憶されることにより、商標を手掛かりとして購買意欲が惹起させる機能です。

商標に良いイメージが化体されると、その商標が付された商品・サービスにも良いイメージが化体され、商標自体が強力な広告宣伝機能を果たすようになります。

商標のシンボル性がこの機能を促進しています。

3.[商標登録制度の役割]を知る

上記のごとく、商標は出所表示機能、品質保証機能、広告宣伝機能の3つの機能を発揮しますが、商標がこれらの機能を市場で適正に発揮するのには、商標の自他商品・サービスの識別機能が害されないことが必須条件になります。

つまり、同一ないし類似する商標は同一人が使用し、他者が使用しないことが条件になります。

これを制度的に実現するのが、同一ないし類似する商標については、最先の商標出願人にのみ商標登録を認める商標登録制度です。

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くるま

カーショップ

人には名前があり、商品等にも名前があります。殆どの人は、生まれたときに付けてもらった名前を使い続けます。

同姓同名の人も少なからず存在していますが、人の場合は、同姓同名であっても、個々人の別を比較的容易に識別することができます。同姓同名の人であっても姿・形・声などに違いがあり、個性が違うからです。

これに対し、製造販売元の違う商品に同一の名前(商標)がついていると、同姓同名の人のようには簡単に製造販売元の違い識別できません。

例えば、或る自動車メーカが、競合他社の自動車と同一ないし類似する商標名を付けて自動車を販売した場合、同姓同名の人のようには、それらを識別できません。

更に素人の一般ユーザーにとっては、自動車を購入し、実際に乗り回してみない限り、その自動車が、自分にとって運転し易いのか、価格相応の品質・性能なのか、燃費が本当に良いのかなどが判断できません。

それゆえユーザーは、過去の購入経験や知人・友人などのアドバイス、他者の評判などを判断材料にして購買決定をすることになります。

このような判断材料は、印象として「商標」に落とし込まれています。ユーザーは商標を手掛かりに判断することになります。

言い換えると、特定自動車メーカや特定車種の良い印象は「商標」に化体され、その商標を介して良い印象が多くの人々に広がります。

しかし、複数の自動車メーカが同一ないし類似する商標を付した自動車を販売しているような場合は、商標を手掛かりとして自動車を選定したユーザーは、自動車購入後に、「何にこれ! 違うじゃない」と気付くことになります。

このような事象が、出所の誤認混同です。

なお、各自動車メーカは会社名や車種名を商標登録しているでしょうし、自動車は高度で高価な商品なので簡単に他社ブランドにタダ乗りすることはできないでしょう。

よって自動車についてはこのようなことはごく稀にしか起きないでしょうが、身近な消費財にはよくあることです。

それゆえ、生活に密着している自動車を例にして説明させていただきました。

出所の誤認混同が生じるような状況下においては、商標の出所表示機能、品質保証機能、広告宣伝機能は適正に発揮されないので、商品の購買者・取引者は、いちいち商品の出所や品質を確認しなければならなくなります。

このような状態になると、円滑に商取引がなし得なくなるため、経済発展が阻害されます。

それゆえ、このような状況に陥らないようにする必要があります。商標登録制度は、このような状況に陥ることを防止する経済システムの一つです。

4. 商標登録制度の目的は、出所表示、品質保証、広告宣伝の3つの機能を守ること

 商標登録制度は、同一ないし類似する商標については最先に出願した者にのみ商標権を付与し、その者にその商標の使用を占有させます。

これにより、同一商標が付された商品・サービスは、同一の出所から出たものであることが保証され、商標所有者の企業努力により品質保証が担保され、その商標に広告宣伝機能が化体されます。

ここで、商標が同一とは、文字、図形、記号等の商標構成要素(人間の姿・形・声などに相当する要素)が同一であることを意味します。

また類似する商標とは、商品の出所の誤認混同を生じるおそれがあるほどに似通っていることを意味します。

また、商標登録制度の制度の下で登録の認められた商標を「登録商標」といい、登録商標の所有者を商標権者といいます。

商標権者には、指定商品又は指定役務(役務とはサービスのことです)について登録商標の使用する権利を占有する商標権が認められます(商標法第25条)。

商標権者は、登録商標を独占的に使用することができるとともに、他者がその商標にタダ乗りしたような場合には、それを排除することができます(差止請求権/商標法第36条)。

よって商標権者は、その商標を旗印として、安定した企業活動を営むことができます。その結果としてその商標に商標使用者の「業務上の信用」が化体されます。

日本国商標法はこの業務上の信用を保護することを目的の一つにしています。

すなわち、日本国商標登録制度は、最先に商標出願した者を優先する先願主義を採用することによって、同一ないし類似する商標が複数存在しないようにして、出所の混同を防止します。

これにより、商標使用者の「業務上の信用」という私益を保護するとともに、商取引の安全や取引の円滑を図るという意味で、公益を保護しています。

5. まとめ

商標登録制度は、最先に出願した者の商標を登録し保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、合せて需要者の利益を保護するという役割を担っています(商標法第1条)。

このように商標保護制度は、私益と公益の両方を調和させつつ商標を保護する制度となっています。

この点は各国共通です。よって多忙な企業経営者は、このような商標の役割を知って自社の商標戦略・ブランド戦略をマネジメントすると、きっと自社戦略を成功に導けるでしょう。

商標意匠相談室