海外で商標権を取得する方法/日本語を含む商標を外国でもそのまま使用すべきか

certificate of registration

 

《初めて海外進出する企業が知っておくべきこと/商標のいろは-3》

本稿は、初めて海外進出する企業が知っておくべきこと/商標のいろは-3として、進出予定国で商標権を取得する方法と、日本で使用している日本語を含む商標を進出国でも使うべきかどうかについて考えます。

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1. 海外で商標権を取得する方法

外国で商標権を取得する方法としては、それぞれの国に直接出願する方法と、国際登録制度を利用する方法と、があります。

いずれの方法においても、130年以上の歴史を有する工業所有権の保護に関するパリ条約が、外国で商標権を取得する際の基本になります。

そこで、ここでは外国で商標権を取得する際の重要な枠組みを規定しているパリ条約4条(優先権)と6条の5(外国登録商標)を説明します。

また、実務的に重要な役割を果しているマドリッド協定に基づく国際登録出願制度について簡単に説明します。

 1.1 パリ条約4条

パリ条約4条は、日本国(同盟国)の出願日から6か月以内に、日本国の商標登録出願に基づく優先権を主張して、外国に商標登録出願する場合、当該外国で優先権を主張できる旨を定めています。

ここでいう優先権とは、日本国出願の出願日から外国に実際に出願された日までの間になされた他の出願や当該商標の使用等によって不利な取扱いを受けないとする利益です。

商標についての優先権を主張できる期間は、日本国の出願日から6か月です。

ただし、6か月を過ぎると、もはやその国で商標登録されなくなるということではありません。優先権が認められなくなるので、その国に実際に出願された日をもって審査がなされるということです。

商標は新規性が登録要件とされないので、日本国の出願日から6か月を過ぎても、また日本国で何十年も使い続けている商標であっても、外国で商標登録される可能性は十分にあります。

    1.2 パリ条約6条の5

パリ条約6条の5は、本国で正規に登録された商標は、原則として他の同盟国においてもそのままその登録が認められかつ保護されることを規定しています(同盟国で登録された商標の他の同盟国における保護/外国登録商標)。

この規定は、日本で登録されている商標であるが、進出先国でその商標の登録が認められないような場合に役に立ちます。

例えば、当該国の国民が読めない外国語を含む商標の登録を認めない国においても、他の同盟国民である日本国民の商標は、そのまま登録が認められることになります。

ただし、当該国の第三者の既得権を害する場合や、その商標が日本国では登録が認められたものであっても、当該国で確立した商習慣において常用されるようになっている記号若しくは表示のみで構成されたものである場合や、当該国の第三者の既得権を害するもの、識別性を有しないもの、公序良俗に反するものなどは例外となります。


この例外において、日本国で商標登録された人が諦めきれない場合が生じるのは、第三者の既得権を害する場合です。

例えば日本商標所有者の営業努力により、日本国でよく知られるようになった商標を、当該国に先に持ち込んで使用している第三者がいると、この者に既得権が発生する可能性があります。

商標登録しよう!
登録商標の例

このような場合、日本商標所有者である企業は、その商標を買い取るなどしなければ、その国で商標権を得ることができません。

このような事態を避けるためには、とにもかくにも早めに進出予定国に出願手続きを行う必要があります。

    1.3  国際登録出願制度の利用

国際登録出願が受理官庁として機能する日本国特許庁に提出されると、その願書が国際事務局(世界知的所有権財産機関)に送付され、国際事務局の管理する国際登録簿に国際登録されます。国際事務局はそれぞれの指定国に国際登録がなされた旨を通知します。

国際登録出願制度(標章の国際登録に関するマドリット協定議定書に基づく制度)は、一つの願書で、権利を取得したい複数の国(締約国数106カ国/2019年)を指定し、この願書を受理官庁である日本国特許庁に提出すればよい制度です。

これに対し 指定国は拒絶理由があるか否かを国際事務局に通知することになりますが、拒絶理由がない場合、当該指定国で登録になったものとされます。

つまり、商標出願人は各国ごとに出願手続を行う必要がなく、一つの願書を受理官庁である日本国特許庁に提出するだけで、多数国で商標権を取得できることになります(拒絶理由に対応する場合には、現地代理人の選任が必要となります)。

国際登録制度は、多数国に出願するのに便利な制度であり、「立体商標」、「音商標」、「動き商標」、「ホログラム商標」、「色彩のみからなる商標」、「位置商標」についても利用することができます。

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    1.4  いろはの「い」

以上に説明しましたように、パリ条約上の優先権の利益を受けるには、日本国への商標登録出願の出願日より6ケ月以内に外国に出願する必要があります。

またパリ条約6条の5の外国登録商標の規定の利益を得るには、日本国に商標登録されている必要があります。

また国際登録制度を利用するには、日本国特許庁に 商標登録出願若しくは商標登録がされている必要があります。

そしてパリ条約上の優先権を伴う出願においては、日本国への出願日が他の国における判断基準日になり、国際登録出願の場合は、日本国特許庁の受理日が国際出願日となります。

上記判断基準日又は国際出願日から、当該国に実際に出願された日までの間に、当該国でなされた第三者の行為は、“既得権”とはなりません。

つまり、当該国に実際に出願するまでの時間差を克服できることになります。

ということで、早めに日本国に商標登録出願し、かつ早めに海外進出の予定国に商標保護の手続きすることが、海外で商標権を取得するいろはの「い」になります。

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海外進出/商標登録

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2. 日本語を含む商標を海外でもそのまま使うべきか、修正すべきか

   2.1  いろはの「ろ」

言語は国によって違い、商標に使用される文字も、国によって違うのが普通です。

例えば漢字は日本、中国、台湾、香港などでしか使用されませんし、ひらがな、カタカナは、日本以外の国では使用されません。文字は知覚的記号ですが、単なる記号としてしか理解されない場合と、その意味内容が理解される場合とでは、そのメッセージ性が大きく違います。

それゆえ、海外進出を考えるときは、日本国で長年使用している日本語商標または日本語を含む商標をそのまま使うのか、それとも翻訳して現地の人たちに理解できるようにするのかが問題となります。

これが海外で商標権を取得する場合におけるいろはの「ろ」です。

日本国で使用している商標が日本語を含む場合における検討項目は以下の①~⑤となります。

   日本国で使用している商標をそのまま使用する

   日本語部分をローマ字表現にする

   日本語部分の意味を英語に翻訳する

   ④日本語部分の意味を進出国の言語に翻訳する

   日本国で使用している商標とは別に、世界各国で使う商標を新たに作る

この問題は、その国と日本国との関係をも考慮して総合的に判断すべき事項ですので、軽々に結論をださないほうがよいでしょうが、敢えて単純化していうと次のようになります。

現地に早く溶け込んで商売をしたい場合は、日本語部分をその国の人々が読める言葉に変えるのがいいでしょう。現地の人に意味が理解できる商標であると、早く馴染んでもらえるからです。

逆に、「あたらしもの」好きの国や多様性を許容する国の場合は、日本国を含む商標をそのまま使うのもよいでしょう。

更に当該国の人々が日本製品・商品に良いイメージを持っているような場合には、日本語を含む商標をそのまま使用するのがよいでしょう。日本語が、日本国の製品・商品・サービスであることを端的に物語ってくれるからです。

例えば、和食として海外で人気のある寿司や天ぷらの店舗は、日本語表示が多いようです。

また、中国では、日本製品・商品対する品質への信頼感が高いので、商店の看板や製品・商品に日本漢字、ひらがな、カタカナの商標(商標登録されていない場合を含む)が使われていることがあり、このようにすると商品がよく売れるそうです。

アメリカでも似た現象があり、日本からニューヨークに進出したラーメン店の「一風堂」は、漢字の商標をそのまま使用しています。

これとは逆の現象ですが、過去の日本国においては、化粧品の名前にはフランス語、薬の名前にはドイツ語がよく使われていました。またハイテク製品には英語がよく使われています。

   2.2  いろはの「は」

これらの事例からもわかるように、商標の構成要素である文字は、文字が表す意味内容だけでなく、その文字が持つ文化的属性がメッセージ性を発します。

それゆえ、進出先の国の人々が日本語を理解できるか否かといった単純な基準ではなく、その商標に対する自社の思い入れや、日本国と進出国との文明的・文化的関係などを考慮して決めるのがよいでしょう。

ここで②~⑤を選択する場合においては、現商標の一部修正であっても新規商標となります。

よって修正後の商標を、日本国にも急ぎ出願しておく必要があります。これが海外で商標権を取得する場合におけるいろはの「は」です。

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3. まとめ

本国で長年使用している商標であっても、進出国において使用できないことや、商標権を取得できないことがよくあります。海外進出計画がある場合は、進出予定国にも速やかに出願手続きを行っておきましょう。

その際、現在使用している日本語を含む商標を海外でもそのまま使用するのか、それとも日本語部分をローマ字表記にするのか、英語翻訳とするのか、それとも現地語表記とするのか、などについて検討し、必要な商標の補充を行っておきましょう。

 

商標意匠相談室