食材のもつ良いイメージを利用するネーミング方法/新生姜味のカップ焼きそば

 
 
新生姜焼きそば
新生姜文字商標

▼2020年6月29日に、サンヨー食品から、カップ焼きそばの新商品、「岩下の新生姜味」の塩焼きそばが発売されました(出典  https://www.sanyofoods.co.jp/products/4689/ )。上記画像に示すように、この商品は、容器の中央に「岩下の新生姜」という文字が大きく描かれています。よって、パッと見には、この塩そばには新生姜(の漬物)そのものが入っていると受け取ります。しかし、この塩焼きそばには、岩下の新生姜そのものは使用されておらず、使用されているのは、岩下の新生姜に使用する生姜から作った生姜粉末です。そしてこの生姜粉末は、焼きそば用ソースに入っているのだそうです。

▼このことを知ると、容器中央の「岩下の新生姜」の右横に描かれた小さな「味」の意味が少しわかりますが、「岩下の新生姜」の文字が容器の中央に大きく描かれている意味が、まだ理解できません。「岩下の新生姜」は、生姜の漬物の商品名であり、塩焼きそばの名前ではないからです。

▼岩下食品株式会社は、「岩下の新生姜」というネーミングの商品を何種類か販売しています(https://www.iwashita.co.jp/products/shinshoga/)。

その中に焼きそば専用の新生姜という商品があります(2020年6月1日から販売)。この焼きそば専用の新生姜という商品は、本件と同様、容器の中央に「岩下の新生姜味」が目立つように表示され、その右横に目立たない文字で「焼きそば専用」と表示されています。この商品は、岩下の新生姜を千切りにカットし、焼きそばに合うよう仕上げたというものであり、キャッチフレーズは “やさしい辛味と爽やかな風味、シャキッとした食感が焼きそばのおいしさをパワーアップします。”となっています。

▼岩下食品株式会社の「岩下の新生姜」は、32年以上の歴史を有する知名度の高いブランドですが、「岩下の新生姜」(文字)についての商標登録出願がされたのは最近(2019年7月3日)です。この商標登録出願の指定商品は、生姜の漬物(29類)、野菜の漬物(29類)、飲食料品の小売又は卸売りの業務において行われる顧客に対する便益の提供(35類)、食料品の加工(40類)ですが、この商標登録出願(画像参照、商願2019-92087)は、現時点(2020年6月29日)では登録になっていません。
 岩下食品株式会社が「岩下の新生姜」を今日まで商標登録出願しなかったのは、「岩下」は会社名の一部であり、「新生姜」は一般名称であるので、その必要がないと考えていたのでしょうか。岩下食品株式会社の新生姜が次第に人気を有するようになり、これをブランド化しようとしたのでしょうか。

▼生姜を使った一連の商品のパッケージに、「岩下の新生姜」を付するという商品企画は、長年積み上げてきた「岩下の新生姜」に化体した良いイメージ、例えば、フレッシュな味わい、やさしい辛さ、などの良いイメージや食体験を横展開しようとしたのでしょうか。今回取り上げたサンヨー食品のカップ焼きそばも、「岩下の新生姜」の食体験の横展開しようとしたように思えます。

 上記画像に示すカップ焼きそばは、容器の中央に大きく写真付きで「岩下の新生姜」が表示されており、新生姜をイメージするピンクが全体的に使われています。商品そのものを表す「塩焼きそば」の文字は、小さく表示され、更に塩焼きそばの製造メーカであるサンヨー食品のロゴは左上に小さく表示されているのみです。

 つまり、パッケージデザインが、カップ焼きそばの出所(製造販売元)は「岩下の新生姜」であるかのごときになっています。

▼インスタント焼きそばの製造会社であるサンヨー食品と、生姜製造会社である岩下食品の双方の意向は、部外者にはわかりません。しかし、このような容器デザインを見る限り、「岩下の新生姜」に対する食体験からする好イメージを、焼きそばの需要拡大に利用しようとする戦略のように思えます。

なかなか良い戦略です。他の食品にも利用できそうですね。

 

商標意匠相談室